11.生物コミュニケーションの三段階

ガンサー・ステントによれば、生物の領域では三つのタイプのコミュニケーションが
働いているという。まずひとつは〈遺伝子段階コミュニケーション〉であり、これは
個体の一生に比べれば、より長い期間作用する。このタイプのコミュニケーションが
系統発生をつくり、多くの世代を超えたコヒーレントな進化を可能にする。


次の〈代謝段階コミュニケーション〉は、メッセンジャー役をつとめる特殊な分子、
つまりホルモンによって生体内で伝達され、ふたつの役割をはたす。まず第一は、
植物・動物を問わず多細胞生物の発生過程を調整する。第二の役割は、生物に対する
環境からのゆらぎの効果を鎮める働きである。言換えれば、生物の自治を強めるのに
かかわる役割と言える。ホルモンにもとづく代謝段階コミュニケーションは、
比較的ゆっくりと作用し、生体内での伝達には数秒から数分の時間を要する。
ごく一般的に言えば、自己組織化するエネルギー/物質システムが現すすべての
交換プロセスは、代謝段階コミュニケーションである。


生物による第三のコミュニケーションは、神経系によって伝達されるタイプのものだ。
したがって、これは〈神経段階コミュニケーション〉と呼ばれるものだ。
このタイプのものは生体内で通常100分の1秒から10分の1秒程度の速さで
作用するので、代謝段階コミュニケーションより平均約1000倍速い。


すでに遺伝子段階コミュニケーションでも、モデルをつくり、それを未来に投影し、
予測すら立てる能力がある。同じことは代謝段階コミュニケーションについても言える。
化学的散逸構造から始まる代謝を行なうシステムは、機能と結びついた自律的構造を
生み出すものだ。こうした構造と機能の相互依存的・相補的原理は、もっとも単純な
自己組織化の領域でさえ積極的な役割を担う。進化にとって、これらの
コミュニケーションは重要なものであるといえる。